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「彼氏にドタキャンされたっぽいので、泊めてください」 「何考えてんの、お前」 どしゃ降りの雨の中、やってきたのは。 ワンナイトスタンド 「え、びしょ濡れになった幼なじみをほっぽり出すわけ?」 「一人暮らしの男の家にひとりで来る、お前のその神経がわかんねぇ」 そういいながら、 空蝉が通れる分だけドアを開け、招き入れているのは、 幼なじみの気安さか、それとも。 「はー、参った参ったー、いきなり降って来るんだもん。 待てど暮らせど彼氏は来ないしさー」 「ほれ、タオル。着替え出しといてやるから、はやくシャワーあびろ」 「蛭魔くん、やらしー、シャワーだってー」 「殺すぞ」 銃口を向けながらそう言うと、 空蝉は慌てたように浴室へ向かった。 ……どうせ、実際に慌ててなんかないだろう。 俺が本気でないことなんか、あいつには全て分かってしまっている。 「ねー、お酒ある? 飲んでい?」 シャワーからあがって、関口一番それかよ。 薄いTシャツと短パンで、髪は綺麗に濡れていて。 「ダメって言っても飲むんだろ、どーせ」 「へへ、いただきまーす」 冷蔵庫から缶をとりだし、グラスに注ぐ。 グラスのある場所を知っているあたり、俺たちの関係のあいまいさを物語っている。 注がれた、透明なオレンジの向こう側。 「で?」 「んー?」 「少しくらいは愚痴聞いてやるけど」 で、気が済んだらさっさと帰れ。 「あ、ほんと? じゃあ遠慮なく言わせてもらうけどね。今日はねぇ、7時に駅前で待ち合わせてたの。 一緒にご飯食べよって言ってて。でも、八時になっても八時半になっても来ないわけ」 「つーか、そこまで待ってたのかよ。律儀だな、お前も」 少し呆れて、言った。俺も冷蔵庫から缶チューハイを取り出す。 「うるさいよ。何回も電話しても出ないしさー。で、いきなりすごい雨が降ってきて、 傘も持ってなかったし、家に帰るより蛭魔んちのが近いことに気づいて、来たわけですけど。 まあ、彼氏のほうも最近冷たかったし、潮時かなー」 「なんだ、そんな傷付いてるわけじゃねぇの」 「そそ。何、少しくらいは心配してくれてたわけ」 「別に。ただ、お前が振られたら、泣きつかれて迷惑こうむるの俺だからな」 ガラス窓を打つ雨音が、いちだんと激しくなる。 ふと、 空蝉が外を見やった。その横顔を見ながら、俺は考える。 空蝉、お前何を考えてる? ここへやってきたのは、何故。 本当に何も考えてないのか、それとも。何か、期待しているのか。 「もう、帰れないかも」 時計はすでに、10時を指している。 「ざけんな、タクシー拾うなりしてさっさと帰れよ」 「だって服乾かないよ。乾く頃には夜中で、終電も出ちゃってるし」 面白そうに笑う、その瞳の奥。 届きそうで届かなくて、触れれば簡単に壊れてしまいそうなもの。指先に触れて、鋭く痛む。 ずっと、我慢してきたもの。「イイヒト」の仮面を被って。 それも、そろそろ限界、かもしれない。 「何か期待してるなら、いいぜ、応えてやっても」 「あら、何をかなぁ」 「今更、拒否しても遅ぇからな」 視線が、ぶつかる。ガラスが砕けたような音を立てて。 細い首筋や、薄布に隠されたふくよかな胸や。 禁忌の、そのひとつ先を、 空蝉と一緒に見てみたかった。 暗い暗い闇の中。まるで二人だけ閉じ込められたよう。 俺たちの息づかいと、微かな布ずれの音しか聞こえない。 「……ん、あ、蛭魔」 「名前で呼べ」 「もう、もう入れて、……妖一」 膝を割って体を押し進め、その湿った奥を突き上げた。 雨の音と、繋がる音が融けて、この上なく淫らだ。 やっと、捕まえた。 雨と風の音で、目が覚めた。まだ少し夢から醒めないまま、隣で寝ているはずの 空蝉を探す。 「ん、 空蝉……?」 腕を動かしてみるが、湿った空気を切り裂くだけ。 「……?」 もう起きているのかと、居間へ出てみる。 テーブルのうえは昨夜のままだ。 一枚の、メモを除いて。 『昨夜は付き合ってくれてありがとうね。 始発で帰ります。』 捕まえたと思えば、簡単に逃げてしまう。 一瞬だけの幸福を与え、深い深い傷を残して。 まだアルコールの抜け切らない頭に、うるさく鳴り響く。 雨は、やまない。 |
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